ソニー 盛田昭夫 “時代の才能”を本気にさせたリーダー

ソニーといえば、盛田昭夫と井深大によって作られ、戦後の国産エレクトロニクスを牽引したブランドとして知らない人はいないほど有名だ。

本書は500ページを超えるボリュームであるが、どこからどのように読んでも楽しめるエピソードが満載である。

私が興味深く読んだのは、盛田の家が造り酒屋を営んでいたというくだりである。
当時、盛田の故郷である知多の酒は灘や伏見の酒と比べて「田舎醸」と下げずまれ、これといった知名度もない状況であったようだが、盛田家十一代目当主の命祺(めいき)が品質改良を果たし、ついに自社銘柄を持つに至る。それだけに留まらず、味噌や醤油の醸造に着手し、軌道に乗ると見るや、仲間と千石積み船を購入して江戸航路を開拓し、貿易によって富を築いていった。

これだけなら良くある商人の話だが、命祺はその稼ぎを地元の道路拡張や港湾整備といったインフラ整備へ投入した。私費でインフラを整備するとは何ともスケールの大きな話であるが、のちに明治になってパン製造事業にも乗り出し、それは現在の敷島製パンへつながっているという。

こういった話をはじめ、興味深いエピソードが目白押しなのだが、ここまででまだ21ページである。読み進めるたびに新たな驚きを感じるであろう。