今日は平成31年4月28日。平成も残すところあと3日になってしまった。
大型連休は仕事もあるし、僅かな休日の楽しみにとAmazonのセールをのぞいていたところ、こんな本を見つけた。
殿下の料理番とあるが、殿下とは今の皇太子殿下である。となると次の天皇陛下になられる方のお話ではないか。非常にタイムリーであることと、皇室の食事に興味もあったので、ポチってみることにした。
テレビで海外からの国賓をもてなす際の晩餐会の様子を目にすると、日常もさぞかし豪華な食事で彩られているのだろうと思うが、どうもそうではないらしい。 渡辺氏の著書48ページによれば、御所でのふだんのお食事と題してこう書かれている。
ご日常のお食事には特に高級な食材や珍品といわれる品が並ぶこともなく、ごく普通の家庭で私たちが食べているようなものを召し上がっています。いえ、食習慣がグレードアップした昨今の日本においては、むしろ質素と呼べるくらいではないでしょうか。
和食であれば、お魚があって、お浸しがあって、それに香の物と御汁とご飯。食後に果物。お刺身がついたり、天ぷらがついたりするのは、ちょっとしたお客さまのときくらいです。
洋食だったら、たとえばハンバーグにガルニチュール(付け合わせの野菜)、スープ、サラダ、パン。食後にお飲み物とデザートといった具合。
殿下の料理番 皇太子ご夫妻にお仕えして 渡辺誠著
(小学館文庫)
絢爛豪華なイメージからは拍子抜けするほどの普通な感じである。カレーやハヤシライス、天丼やカツ丼も召し上がるそうだから、我々の食生活からはそうかけ離れていない様子が伺える。
皇室の料理人に対して、普段は豪華なお食事を摂られているのではという疑問は一般の人からは当然のように尋ねられるようで、渡辺氏が宮中の料理人になった際の主厨長・秋山徳蔵氏の著書にもこんな記述が出てくる。
天皇陛下は、黄金(きん)のお箸でお食事を召し上がるーとは、広く言い伝えられた話であった。今でもそう信じている人がいるかも知れない。
ここにあらためて説明するまでもなく、雲の上にいらっしゃった時代から、いまにいたるまで、一般国民と変りのないごく普通のお食事を、ごく普通の柳の箸で召し上がっておられるのである。
味 天皇の料理番が語る昭和 秋山徳蔵著(中公文庫BIBLIO)
食事だけでなく食器にも話が及んだが、日常で使用するものは別に御紋が入っているものでもないようだ。菊の御紋が入ったものは、天皇家主催の公式な午餐会や晩餐会にのみ用いられるそうで、陛下や殿下のお住まいである御所を訪問されたお客様にはお印のついた食器を使うという。
今上陛下のお印は「榮」、皇后陛下は「白樺」、皇太子殿下は「梓」、同妃殿下は「ハマナス」というように、皇族お一人お一人にお印が決められていますから、そのお印が刻まれているものをお使いになります。
殿下の料理番 皇太子ご夫妻にお仕えして 渡辺誠著
(小学館文庫)
ただ、普段のお食事ではお印の入ったものは使わず、一般的な絵柄でお気に召された物を使うらしい。そして、普段使用している柳の箸については、渡辺氏が尊敬していた先輩である、谷部金次郎氏の著作にはこう記されている。
箸は塗りではなく、まして象牙でも銀でもなく、いわゆる柳箸です。つまり割り箸と同じものと考えていいのですが、一回のご使用で捨てることは決してなく、二、三回、両陛下がお使いになったあと、箸の先が煮物の汁などでにじんでくると、「おすべり」として、私たちが菜箸代わりに使わせていただきました。
昭和天皇と鰻茶漬 陛下一代の料理番 谷部金次郎 著
(河出文庫)
谷部氏は昭和天皇に仕えておられたが、食器の扱いについては昭和も平成もだいたい同じであったようだ、割り箸のようなものを二、三回繰り返して使用するのは意外であったが、物を大切にするというのは良いことである。
今まで皇室の食事について思っていたことが、料理番の方の著書でなんとなく理解できたような気がする。時代の節目で良書にめぐり逢えたことは収穫であった。
渡辺氏が配属された際の主厨長であった秋山徳蔵氏の著作
渡辺氏の先輩であった谷部氏の著作。氏は昭和天皇崩御のあと、しばらくして退職された。